◆三十二相・散吟打毬楽とは？
「三十二相」とは、仏の三十二種の身体的特徴を讃える天台宗の声明です。かつては、魚山の秘曲とされた特殊性のゆえか通常の法会で耳にすることは多くありません。
この声明は雅楽曲　黄鐘調（水調）の「散吟打毬楽」「鳥急」を合奏する非常に珍しい曲になります。奏法は催馬楽、朗詠などのように付けず、雅楽の通常の吹き方をします。
とくに、「散吟打毬楽」は「三十二相」に用いる曲であり、独奏することは非常に稀だったようです。いつから合奏されていたのかは明らかになっていませんが、平安時代には盛んに合奏されていたと記録には残されています。
しかし、時代の変遷とともに演奏する機会は段々と少なくなってきたようです。
雅楽の方では、明治時代には大きな出来事がありました。今まで三方楽所（京都・大阪・奈良）それぞれで伝承されてきた雅楽曲が「明治撰定譜」として統一された譜面になったのです。
選定曲目は88曲。選定外の曲は「遠楽」と称し、各楽家に譜面を残すのみとなりました。特に「三十二相」の破曲「散吟打毬楽」に於いてはほぼ伝承が途絶えたと同然で、譜面を探すことすら困難な時期もあったそうです。
しかし、そんな散吟打毬楽の復活を試みた人物がいました。それが、声明と雅楽の研究者羽塚堅子師です。師は魚山声明の権威天納中海師の協力により『三十二相考』を発刊し、「散吟打毬楽」は当時の有識者に初めて認知されました。
この研究は非常に困難な復曲の糸口を開いたものとして当時とても高く評価されました。その後も、色んな人物により復曲は試みられ、主に国立劇場で演奏がされています。
その都度、譜面も作られているので、譜面にいくつかの種類があります。今回は昭和後期に東儀兼彦氏が復元した譜面で演奏しています。
正式に「三十二相」をお唱えする間に「散吟打毬楽」を6回、急曲をお唱えする間に「黄鐘調鳥急」を2回繰り返します。すべて演奏するとおよそ1時間半ほどとなる長大な曲ですので、今回は本曲を「散吟打毬楽」1回分に省略して奉納致します。
如来の姿が荘厳され、無上の仏世界が現前するでしょうか？どうぞごゆっくりとお楽しみ下さい。
声明　末廣正栄師、雨宮亮祐師（句頭）
羯鼓　下宮弘聖
太鼓　岩﨑達也
鉦鼓　下山貴彦
鳳笙　佐藤祐介
篳篥　岡庭健
龍笛　熊井戸啓貴
0:00出演者紹介
0:19黄鐘調音取
1:17三十二相本曲・散吟打毬楽
15:14三十二相急曲・鳥急