しながわのチカラ 布のアッサンブラージュ作家・林アメリー

「旗の台に魔法使いが暮らす家がある」という噂をご存知であろうか。
住宅街にある、こちらのお宅。緑豊かな庭を持っている。
ここに魔法使いが住んでいるのか。
訪ねてみると……
林アメリー「こんにちわ」
現れたのは外国人らしき女性。この人が魔法使い?
林アメリー「この敷物は丸帯でした」
器を飾る敷物。元は和服の帯だという。
林アメリー「これは羽織でした。これも着物」
彼女が着ている服も、和服を作り直したものである。
独自の方法で作品を生み出す、布のアッサンブラージュ作家・林アメリー。
針と糸を使って、和服の布を再生する技術は、まるで魔法のようである。
日本の布地が持つ存在感を独自の感性でアレンジする林アメリーの世界に迫る。
たくさんの人でにぎわう旗の台。
旗の台駅の南側、カナリヤ坂の上に林アメリーが暮らす家がある。緑に囲まれた、こちらのお宅。アメリーさんに案内していただいた。
林アメリー「これは帯でした」
部屋のいたるところに彼女の作品。暮らしと作品が共存しているかのようである。
階段をのぼるアメリーさん。そこは屋根裏部屋。彼女のアトリエである。
作品づくりは屋根裏部屋で行われている。
林アメリー「男性の羽織の裏地を利用してベッドカバーを作成中。表地と綿を縫い合わせ、あとは裏地を縫い付ける。裏地も別の和服を再利用」
アメリーさんの作品には和服を再利用したものが多い。なるべく元の模様をいかすように心がけている。
林アメリー「私のイニシャル入れた」
この作品には、彼女のサインが刺繍されている。
林アメリー「私はフランス人です」
アメリーさんはフランスで生まれた。子どもの頃は、母親の真似をして、人形の洋服を作っていという。
大人になると、洋裁好きが高じてオートクチュール・高級仕立服の世界に飛び込んだ。
その技術を10年間磨いたアメリーさん。
ファッションデザイナー・ギラロッシュのアトリエに移籍。
昭和38年(1963)日本に赴任することとなった。
百貨店と契約したギラロッシュのアトリエ責任者に就任したのである。
本場オートクチュールの技術を指導。日本のファッション界に影響を与えた。
昭和45年(1970)。建築家・林寛治さんと結婚。以来、旗の台で暮らしている。
しばらくは、ご主人の仕事を手伝う傍ら、オーダーメイドの服をデザイン・製作していた。
そんなアメリーさんに転機が訪れたのが昭和58年(1983)。
アイヌの民俗衣装をヒントに、アップリケと刺繍を組み合わせ、オリジナルのタペストリーを製作。アメリーさんが新境地を開く第一歩となった。
材料には沖縄の芭蕉(ばしょう)布(ふ)、着物の帯も利用したという。
林アメリー「着物は織物やプリント、作り方がすべて違う。材料が素晴らしいので必ず良い作品になる」
日本の民族衣装に魅せられたアメリーさんは、家事仕事の合間に時間ができると、屋根裏のアトリエで作品づくりに打ち込んだ。注文服の仕立てから、新しい分野への挑戦は簡単だったという。
林アメリー「注文服は、いつも新しい材料。形も、いつも違う。お客さんの体型も違う。時々、問題が起きた。いまの方が楽しい。自由にできる」
こちらの住まいは、ご主人の寛治さんが設計。築50年ほどになる。
ご主人が設計した建物に調和するように、アメリーさんの作品が散りばめられている。
続いて、案内していただいたのは地下の部屋。アメリーさんが、これまで作った作品がところ狭しと置かれている。
これは女の子用の絞り染めの長襦袢を利用した作品。花や蝶などは切り抜き、アップリケと刺繍をほどこしてある。
こちらの作品は当初、古い和服の布を小さな着物の形にして見本にしようと考えていたという。
それが、そのまま作品にいかされている。
この作品は、何気ない日々の出来事を日記に記すように帯状の布にアップリケで描いている。
林アメリー「少しずつ色々なものをアップリケして、製作に約10年かかった」
林アメリー「着物の模様をそのまま活かした」
古い和服がベッドカバーとして蘇ったという。
こちらは平成30年に製作した作品。
林アメリー「着物を仕上げる前の反物から作った。表と裏を組み合わせたので色が少し違うが面白い」
アメリーさんは平成15年(2003)に個展を開催。それ以降、各地でオリジナル作品を発表している。
また『KIМONO文化』を祖国フランスに紹介する活動も行っている。
こちらは大崎ニューシティにあるО美術館。ここで平成30年(2018)10月。秋の色をテーマにアメリーさんの個展が開催。
館長の鳥山さんに話を伺った。
鳥山「林アメリーは着物、日本古来の『布の技』実用と芸術を両立しているような文化性に感銘を受けて、なるべく本来の姿をいかしながら、パッチワークと一線を画した手仕事をされていますので、是非、ユニークな表現世界をたくさんの方にご紹介したいなということで企画させていただきました。アメリーさんの日本文化に対するまなざしは、温かいものがある」
この日、アメリーさんが向かったのは、旗の台駅にほど近い場所にある『笛家』。日本蕎麦の店である。
林アメリー「新しい座布団を持ってきた。どうぞ、使ってください」
アメリーさんは、こちらの女将さんから和服を提供してもらっているという。この店の座布団はアメリーさんが手がけたものである。
笛家女将・渡辺寿美子「よく来店していただいたので、だんだん仲良くなった。着物の生地を集めて作品を作っているとうかがったので生地をアメリーさんに差し上げて、より親しくなった。私たち日本人とは、視点が全然違う。学ぶところが、たくさんある。アメリーさんは旗の台の誇り」
アメリーさんは、たくさんの人たちから和服の布がもらえると語る。
林アメリー「全部いただけます。幸せです。感謝しています」
彼女にとって、旗の台は、どんなまちであろうか。
林アメリー「旗の台は良い場所。交通の便が良いので楽」
最後に、新作について尋ねると、
林アメリー「新作は秘密。2020年まで待ってください」
日本人の民俗衣装・和服。和服には日本人が伝統的に受け継いできた美意識が込められている。
我々が忘れがちな『和の文化』をアメリーさんの作品が思い出させてくれ、ふれた人たちを和ませてくれる。それこそが、アメリーさんの魔法に違いない。

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