松永和紀×宮台真司×神保哲生:人を不健康にする健康食品のリスクをそろそろ真剣に考えませんか【ダイジェスト】

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マル激トーク・オン・ディマンド 第1205回(2024年5月11日)
『人を不健康にする健康食品のリスクをそろそろ真剣に考えませんか』
ゲスト:松永和紀氏(科学ジャーナリスト)
司会:神保哲生、宮台真司
 そもそも健康食品とは何なのか。実はこの問いには誰も答えられない。なぜならば、そもそも健康食品には法的な定義など存在しないからだ。
 その一方で、ほとんど効果がないばかりか実際には人体に有害になり得る商品が、「健康食品」の名で日々、大量に売られている。
 紅麹を使ったサプリメントによる中毒は、これまでに5人が死亡し270人もの入院者を出す、未曽有の食害事件となっている。医療機関の受診者も1,541人にのぼり、海外でも影響が出ているという。
 小林製薬の紅麹コレステヘルプの中毒については、現時点ではまだ原因が特定されていない。しかし、食品安全に詳しい識者の多くが、健康食品産業が野放図に膨張する中で、今回のような事故が起きるのは時間の問題だったと口を揃える。
 繰り返すが、そもそも「健康食品」には法律上の定義がない。人が口から摂取するものとしては医薬品と食品があるが、両者は異なる法律によって厳格に区別されていて、認可の基準も大きく異なる。薬機法(旧薬事法)によって厳しく管理されている医薬品と異なり、食品は法的には認可を必要としない。錠剤のサプリメントなどは素人目には限りなく薬に近い存在に見えるかもしれないが、法的にはあくまで食品だ。今回問題となっている小林製薬の紅麹を使ったサプリメントも、医薬品ではなく食品だ。なので今回の事故は薬害ではなく、食害もしくは食中毒ということになる。
 食品を売るためには認可などを必要としないが、その分、通常の食品は健康効果を謳うことが薬機法によって禁じられている。ところが1980年代以降の世界的な健康ブームの高まりの中、日本でも特定の食品に健康上の効果を表示して売り出したいという業界からの強い要請があがるようになった。それを受けて政府はまず1991年に食品の中に「特定保健用食品」というカテゴリーを設け、一定の基準を満たした食品については、健康上の効果を謳うことができるようになった。いわゆるトクホである。
 トクホというカテゴリーが設けられたことで、許可を得た食品は健康上の効果を謳うことが可能になったが、トクホの認定を受けるためには通常10年の年月と億単位のコストがかかるとされ、そのハードルは決して低いものではなかった。現実的には大手企業でなければトクホの認定を取得することは困難だった。
 しかし、2015年に規制緩和を旗印に掲げる安倍政権の下、アベノミクスの一環として新たな食品のカテゴリーとして「機能性表示食品」というものが導入された。これはトクホよりも遥かに簡単な手続きでメーカーが健康食品の効果を謳うことを可能にする制度で、企業がガイドラインに則って効果や安全性を確認し、書類を消費者庁に提出すれば、機能性表示食品となり製品の健康上の効果を謳えるというもの。届け出された書類については消費者庁は形式的な確認しか行わず、よってその内容にも責任を負わない。
 機能性表示食品制度の導入によって、国の審査を通過する必要があるトクホに比べて企業は遥かに簡単に商品の健康上の効果を謳えるようになり、これによって売り上げも爆発的に伸びたため、機能性表示食品が市場に溢れるようになった。1991年に導入されたトクホが33年間で1,054件しか認められていないのに対し、機能性表示食品の件数は導入から僅か9年間で6,752件にのぼっている。機能性表示食品制度の導入によって、トクホではとても手が届かなかった中小企業でも健康食品市場への参入が可能になったのだ。
 小林製薬の紅麹コレステヘルプもラベルで大きく「悪玉コレステロールを下げる」「L/H比を下げる」と謳っているが、これはこの商品が機能性表示食品としての届け出をしているから許されたものだった。
 しかし、機能性表示食品の制度が導入された当初から、科学的な根拠のない健康効果を謳う商品が乱造され、いずれはそれが健康被害を生む可能性があることが懸念されていた。機能性表示食品の届け出をするためには、一応その効果の根拠となる論文を添付しなければならないことになっているが、何とその論文がどの程度権威や信頼性のあるものなのかは問われていないのだ。
 科学的な根拠が希薄で、生産管理についても国は一切関与していないが、それでも商品のラベルには大々的に健康上の効果を謳うことができる。多くの消費者は当然それを信じ込み、中には毎日その「食品」を一生懸命に摂り続ける人もいるだろう。今回の紅麹食害はそうした中で起きた、いわば起きるべくして起きた健康食品の食害事件だったのだ。
 科学ジャーナリストの松永和紀氏は、食品の特定の成分を抽出してそれをサプリメントの形で摂ることのリスクを強調する。栄養は食品として他のものと一緒にバランスよく摂ることによって効果が生まれるものが多い。食品の特定の成分を抽出・濃縮して摂取すれば、より高い効果が期待できるという性格のものではない。ましてやサプリメントは毎日摂取されることが多いため、特定の物質だけを過剰摂取することになりやすく、健康上のリスクが懸念されると言う。
 紅麹コレステヘルプによる食害が起きるべくして起きた事件だと言われる理由は何なのか。そもそも健康食品とは何で、なぜ十分な科学的エビデンスに基づかない効果を謳った商品がこれだけ大量に売られているのか。健康食品ブームを引き起こした健康に対する不安はどこから来ているのかなどについて、松永和紀氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。(松永氏より、今回の番組内の氏の発言は所属する組織の見解を示すものではなく松永氏のジャーナリストとしての見解であることを付記してほしい旨の申し入れがありましたので、ここに追記いたします。)
【プロフィール】
松永 和紀 (まつなが わき)
科学ジャーナリスト
1963年長崎県生まれ。87年京都大学農学部卒業。89年京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。同年毎日新聞入社。99年退社し現職。2011年消費者団体Food Communication Compass設立。21年より内閣府食品安全委員会委員(リスクコミュニケーション担当)。著書に『効かない健康食品 危ない自然・天然』、『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』など。
宮台 真司 (みやだい しんじ)
社会学者
1959年宮城県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授、東京都立大学教授を経て2024年退官。専門は社会システム論。(博士論文は『権力の予期理論』。)著書に『日本の難点』、『14歳からの社会学』、『正義から享楽へ-映画は近代の幻を暴く-』、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』、共著に『民主主義が一度もなかった国・日本』など。
神保 哲生 (じんぼう てつお)
ジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表 ・編集主幹
1961年東京都生まれ。87年コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。クリスチャン・サイエンス・モニター、AP通信など米国報道機関の記者を経て99年ニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を開局し代表に就任。著書に『地雷リポート』、『ツバル 地球温暖化に沈む国』、『PC遠隔操作事件』、訳書に『食の終焉』、『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』など。
【ビデオニュース・ドットコムについて】
ビデオニュース・ドットコムは真に公共的な報道のためには広告に依存しない経営基盤が不可欠との考えから、会員の皆様よりいただく視聴料(ベーシックプラン月額550円・スタンダードプラン1100円)によって運営されているニュース専門インターネット放送局です。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
#マル激 #松永和紀 氏 #紅麹 #機能性表示食品 #食害 #神保哲生 #宮台真司

Пікірлер: 26

  • @kiyok8849
    @kiyok88492 ай бұрын

    そもそものコンテンツが良いので無理にグリーンバックでやる必要はないと思います。ご自宅の書斎でも、殺風景な会議室の背景でも問題ないです。

  • @IOT38
    @IOT382 ай бұрын

    日頃の運動と常識的な食生活、健康なんてこれに尽きるのに、サプリで魔法のように解決するなどと考えるのがそもそもの間違い。しかも制度がデタラメもいいとこですね。

  • @user-rv4it9ow3s
    @user-rv4it9ow3s2 ай бұрын

    とても興味深く参考になりました。

  • @user-dj-mogumogu
    @user-dj-mogumogu2 ай бұрын

    これも、献金してくれる大企業を優遇する自民党政治の成れの果て?

  • @qoooooooooo

    @qoooooooooo

    2 ай бұрын

    トクホの認証には億単位でかかるから 中小企業でもとれるようにしたのが今回の機能性表示食品

  • @user-xq7er6zg7o
    @user-xq7er6zg7o2 ай бұрын

    一度もサプリメントは買ったことありません。怖くて食べれない😢他の病がたくさんあるので医者から処方されてるのは飲んでます。 それで精一杯です😊

  • @sin10209
    @sin102092 ай бұрын

    ウェブで公開するならスクレイピングしちゃおうかとも思ったんですが埋め込みなしPDFとかjpgやらでサーバに乗せるだけなんだろうな まぁそれでもデータ化?DB化できそうだけど いつものように全部は載せないんでしょう 出入金額名義ルート全部載せないと

  • @user-xi3tt6hf6x
    @user-xi3tt6hf6x2 ай бұрын

    先日国会で共産党の議員が添加物や人工甘味料を放置する件について質問してました。共産党仕事してるな~

  • @shinobugym
    @shinobugym2 ай бұрын

    配信ありがとうございます😊 かつてはビタミンオタクなみに摂取していましたが、五年くらい前から一切やめました。やはりお食事から栄養補給するのが自然ですね。プロテインは未だ飲んでおりますが、日本人は日本の国土でできたものを食べるべきですね。

  • @gamingair772
    @gamingair7722 ай бұрын

    スゲエ!気が付いたら宮台さんがAI化してた! ビタミンD以外のビタミンサプリメント買うなら野菜食えよ!って思うよね!

  • @noushi4142
    @noushi41422 ай бұрын

    技術的なことはわかりませんが背景の影の差し方と、スタジオの照明とでズレるのが違和感の大きな原因かなと思いました。 思い切ってバーチャルな背景にしたほうがまだ違和感がないんじゃないかな。

  • @awer321
    @awer3212 ай бұрын

    いいとこ取りできないのは社会も食品も同じだね💃

  • @kafuka1991
    @kafuka19912 ай бұрын

    合成映像?見難いです。

  • @user-rp1mb6xx3b

    @user-rp1mb6xx3b

    2 ай бұрын

    声が聴こえればいい

  • @Candysweetcandy

    @Candysweetcandy

    2 ай бұрын

    @@user-rp1mb6xx3b ビデオニュース購読してますが、さすがにこれはちょっと…。今はユーチューブで動画は沢山あるし、減点する箇所がないというのも大事です。 照明とか色んな条件があると思いますが、事前に実際のセットでクオリティを確認するとか専門の方にコンサルお願いしてはどうでしょうか。

  • @user-pn3bq1kn8y
    @user-pn3bq1kn8y2 ай бұрын

    グリーンバッグの抜きが甘いんよ 証明焚いて、f値上げないときれいには抜けないよ

  • @user-nn6oi3xw4v
    @user-nn6oi3xw4vАй бұрын

    霊には、サプリメント呑んてハイになりたいものであります。

  • @arydolphin1974
    @arydolphin19742 ай бұрын

    何でこんなに背景とか本質的じゃ無いことにこだわるのか…。クズ化ってこういうことか。

  • @user-lf4fx5cp7t
    @user-lf4fx5cp7t2 ай бұрын

    マル劇バーチャルスタジオに違和感。。 最近、テレ東のyoutubeチャンネルでもバーチャルスタジオになって広さをアピールしてたけど。。 スターウォーズの通信的な演出?

  • @ojisansperspectivechannel9604
    @ojisansperspectivechannel96042 ай бұрын

    健康食品の闇、と言うのならば何故コロナワク珍の闇に切り込まない?

  • @user-zz8bw6fs1s
    @user-zz8bw6fs1s2 ай бұрын

    どうしてここまでいつものレンガのスタジオの背景にこだわるのかがわからない。そこまでこだわるほどいい背景ではないよ

  • @user-dd4qv4bf6v
    @user-dd4qv4bf6v2 ай бұрын

    今だけ自分だけ金儲け🤬 荒川強啓の頃から宮台先生聞いてますけど所詮外野かな😂 れいわ新選組で分かったけど高邁な学説も鋭い指摘も国会できちっと論戦しないと1ミリも世の中動かない😢

  • @sin10209
    @sin102092 ай бұрын

    もう今更くいもんなんて好きなものくうだけですよ。いちいち健康なんて気にしてられないし、自分も含め安いものしか買えない国民ばかりだし、これからは大半の人間は長生きしたところで苦役でしかない。 どうせなら死に方を考えたほうが建設的では? 痛くないしにかたのほうがニーズがあるし不安もなくなると思いますよ

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