三之助 真心であつらえる品川宿の粋 丸屋履物店

三之助「今日もご覧いただきまして有難うございます。噺家の柳家三之助でございます。今日私は、旧東海道、皆さんもご案内の通り、この辺は歴史と伝統が息づく元宿場町でございますな。新しいお店も結構増えてますけど、こちらのお店なんか良いですね。なんか、ザ・風情というような感じでね」
みづほ「こんにちは」
三之助「こんにちは。良いですね、こちら」
みづほ「有難うございます。1865年からここで営業しております」
三之助「もう150年以上、ということですね。ぱっと見たところ、ここは履物屋さんですね」
みづほ「はい、うちは台と花緒をそれぞれ選んでいただいて、そのあとお客様の足に合わせておすげいたします」
三之助「昔ながらのご商売で。私も一応普段は着物を着て仕事をしておりますので、とても興味があります。ぜひ話を聞かせていただけますか」
みづほ「よろしくお願いいたします」
三之助「よろしくお願いいたします」
創業、慶応元年。
「丸屋履物店」が本日の舞台です。
お店では、5代目の榎本準一さんと6代目の英臣さんが、昔ながらの手作業で下駄や草履といった履物をつくられています。
お客さん、一人ひとりの足に合わせて花緒をすげる、それが昔からの履物屋さんのやり方。
そこで三之助師匠も草履を一足あつらえてもらうことに。
と言っても、これだけ種類があると目移りしちゃうんじゃありませんか?
三之助「エナメルね。こういうものも結構使うんですよ。これね、結構持つんだよね。だけど私は実は、この畳のやつが大好きで、いろいろありますけど、私、修業時代にね、畳ってほら目なりにお掃除したりするでしょ、これだってここに目があってね、ここをね固く絞った雑巾でキュッキュッキュッキュッって磨くんだぞってやらされたんですよ、これ。いっぱいあるんだね、同じ畳って言っても」
みずほ「そうですね、たくさん種類がありますね」
三之助「なるほど、柄も違う。これなんかも面白いと思うけど、私はごくノーマルに着る方なので、じゃあ、これでいこうと思います」
続いては花緒。
その数、なんと千種類以上。
すべて職人さんの手作りというから驚きます。
師匠のお好みは細身の花緒、なんてことをお伝えしたらお店の奥からこんなに出てきました。
粋でお洒落な細身の花緒に、三之助さんもすっかり夢中。
師匠、撮影中ってこと忘れないでくださいよ。
三之助「ここいら辺が気になるんだよな。途中で柄が変わってる?これはなんていうんですか」
準一「江戸褄って言います」
三之助「江戸褄。江戸ってついているんですか」
準一「江戸ですね」
三之助「噺家はなんだかんだって言って江戸好みっていうかね」
準一「粋でなくちゃいけないんだよね」
三之助「そういうのをどうしても選ぶ。細身っていうのもそういうことですよね」
みづほ「サイズだけ確認させてください」
台と花緒を選んだら、今度は足のサイズを測ります。
三之助「いいね、踵出るね。これはね、踵が出るんですよ。皆さんよく、水の上歩けるみてえなこんなデッカイのを履いていますけど、この雪駄というのは踵がちゃんと出るっつうところが良いんですわ。ちょうど良いんじゃないですか」
準一「こちらに幅の狭い、格好の良いのがあります」
三之助「なんか違うの出てきちゃった・・・ああ、幅が狭い!あ、良いねぇ。でもなんか履いた感じが違うな。厚みが違うのかこれ」
準一「普通のだと後ろが二枚なんです。そっちは一枚なんです。より薄くしてあります」
三之助「これだとね、踵の高さが違う。私は今、薄い方にしようとしているわけですよ。背を高くごまかそうとしないってところが良いんですよ。じゃあこっちにします。あれ、どんどん変わっていっちゃう」
旧東海道に受け継がれる手練れの職人技で花緒がすげられます。
準一「私のまだ若い頃は、この通り、東海道、品川の宿に10軒の「下駄屋」がありました」
三之助「そんなに。今は、この通りには履物屋さんというのは?」
準一「通りと言うか、東京と言うか、何軒かですよ。お客さん一人ひとりの足に合わせた花緒をすげるのが「下駄屋」の仕事ですからね、それができる「下駄屋」さんがその中の何軒か」
三之助「なるほどね。かつてのこのお店のお得意さんというのを、もう少し細かく聞かせていただくと、どういう方が多かったんでしょうか?」
準一「一番多いのはいわゆる職人さんです。品川は職人のまち。その次はここへ遊びに来る方。着るものよりも足元を大事にしたんです。上は木綿の吊るしで良いんです。だけど足元だけは、いわゆる「南部」の良いものを履いていく、そうするとご新規さんですね、と通す座敷が変わる」
三之助「現地調達したわけだ、良い履物を」
準一「もったいねえから、その時だけしか履かない」
三之助「だから、悪い履物を履いて品川へやって来て、ここで良い履物に変えて」
準一「帰りはまた悪いもの履いてく」
三之助「良いですな。それが洒落ているじゃないですか」
三之助「ここ1年ぐらいのコロナ禍っていうんですか、これはこのご商売には何か影響がありましたか?」
準一「まず寄席が休み、歌舞伎が休み、お祭りがない、入園、入学がない、結婚式が延期、全部です」
三之助「ハレの日がないから、そうするとハレの日に履いていこうという履物がでないんだ」
準一「今、若い人、六代目がインターネットとかいろんなことができるわけ。そっちの方で多少なりとも息がつかせてもらったけど、我々の時代のままだったら、どうしようもなくなっちゃう」
三之助「こちらの丸屋さんはホームページもあるんですってね。ホームページがある店に見えないってところが良いんだけど。それは六代目がやっているんですか?」
英臣「逆にそっちに手を入れていこう、と思えるきっかけになりましたね」
三之助「こういう頼もしい六代目が今いるじゃないですか?五代目としてはどういうお気持ちなんですか?」
準一「私としてはありがたいし、親としては良いのかな、これで、という気持ちもありますし、難しいところです」
三之助「継いだ六代目はどういう考えでやろうって思ったんですか?」
英臣「結局、自分がもうやらなかったとしたら、このお店はなくなっちゃうわけじゃないですか。慶応元年からやっているので、代々やってきているわけですよね、それがなくなったとしたら、今までやってきたことが意味のないことのように感じてしまうので、それを自分が継ぐことで、まだ今でも価値があるんだなと示すことができればと思っています」
 
最後は、試し履き。
花緒の調整までお客さんの好みに合わせていただけます
三之助「良いんじゃないですかね、このくらいで履き始めて」
英臣「そうですね、ぴったりしているかなと思います」
三之助「はい、という訳で完成でございます。どうですか?」
こだわるのは、すべてお客さんに満足してもらうため。
職人の技と心に触れた一日でした。
三之助「丸屋の若夫婦に揃っていただきまして、なんでもあれですって、一緒になるとき「靴屋」だと思っていたってね。びっくりしたでしょ、全然風情が違うから」
みづほ「思っていたのと全然違いました」
三之助「だました?」
英臣「いやいや。ちゃんと「下駄屋」だとは言っていたつもりなんですけど」
三之助「そこにちょっとした行き違いがあったとしても、今はすっかり女将として」
英臣「頑張ってくれています」
三之助「これから夫婦二人三脚、お店を盛り立てていっていただきたいのですか、六代目の意気込みを、ぜひひと言」
英臣「これまでもそうだったのですけど、これからも伝統的なスタイルを守ってやっていこうかなと思っています」
三之助「それも素晴らしいですね。いかがでしたでしょうか。今日は丸屋さん、私なんかね、結局、雪駄を誂えたりなんかしていますけど、いろんな皆さん買い物されると思いますよ、ご商売もいろんな形ですから。でもね、今日は私、昔ながらのなんかね、久しぶりに良い買い物をしたなと思っております。皆さんどうだったでしょうか。さて、次回のとっておきの品川、どうぞお楽しみに」

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